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あなたの不動産の資産価値がゼロになる日

先日、読売新聞で「阿波おどり20万円桟敷席、50人以上に全額返金…建築基準法違反で提供」という記事を目にしました(記事元はコチラより)。

このニュース、私、そして不動産業界にとってはかなり衝撃的な出来事だと感じています。

というのも、建築基準法に違反している建物(通称:違反建築物)から収益は得られないと証明しているようなものだからです。

目次

建築基準法違反物件の今後

今回の件。「建築基準法違反によって座席料20万円を返金した」となれば、たとえば不動産から収益を挙げている、世の中の賃貸物件はどうなるか?

その物件が建築基準法に違反している場合、今後賃料がもらえなく可能性があることを暗示していることになります。

そして、今は賃料収入があっても、将来的には収入が得られなくなるかもしれません。これだけ世の中がコンプライアンスと叫ばれていますからね(とは言え、コンプライアンスを遵守していない企業も多く見られますが…)。

違反建築物の物件は収益をあげるどころか、売買取引も難しくなってくるでしょう。

検査済証の有無がポイント

事実、事業用賃貸物件なんかは特にそうなのですが「この物件、検査済証はありますか?」と尋ねてくる企業が少なくありません。

ちなみに検査済証とは「建築基準法に沿って建てられた建物です」と公的機関が証明し、交付される書類です。ですから「検査済証が発行されている=当時の建築基準法を満たしている」という証明になります。

検査済証とは

「建築確認申請→許可→中間検査→完了検査」これらのプロセスを通過し、その建物が法律の基準に適合していることが認められたときに交付される書類、それが検査済証です。検査済証は建築確認申請書と同じく再発行ができません(検査済証が発行されたという証明は行政で確認できます)ので紛失しないように保管しておきましょう。

近年においては「検査済証(=検査を受けていないと思われる建物)のない賃貸物件は借りない」という企業(特に中・大企業)も存在していて、検査済証が無かったために、賃貸物件の仲介ができなかった。そんな経験を何回かしたことがあります。

これは賃貸物件だけではありません。不動産売買においても、近年は「検査済証があるかどうか」が重要視されてきています。特に増改築や用途変更をおこなう事業用物件は顕著です。

検査済証が無いとどうなる?

検査済証が発行されていない物件は、増改築や用途変更ができません。建築確認申請時に適法性が不明なために、受け付けてもらえないのです。

しかし、検査済証が発行されていない物件は日本中に五万とあります(検査プロセスを省略してきた業界と、それを見過ごしてきた行政の汚点とも言えます)。

そこで2014年に国交省が「検査済証のない建築物に係る指定確認検査機関を活用した建築基準法適合調査のためのガイドライン」を公表しました。

これは簡単に言えば、当該建物が建築基準法に合致しているか調査をおこなうものです。建築基準法に合致していれば増改築・用途変更の申請がおこなえます。合致していなければ合致させるか、諦めるかになります。

ですが現実的に、検査を受けていないということは、建築基準法に違反しているケースが多く、物理的にも、経済的にも是正するのが困難な場合が少なくないようです。

コンプライアンス以上のリスクとは

これは事業用不動産だけでなく、住宅においても同じです。検査済証のない建物はローン申請にも影響が出てきています。

まぁ考えてみればわかりますね。違反建築物はコンプライアンスという側面以上に、安全性に疑問が残ります

たとえば耐震性に欠けているケース。検査を受けていないのですから、そもそも耐震性を有しているか、わかりません。

木造2階建てで建築確認を申請し、完成時には3階建になっていた。このような物件に出会ったことが多々ありますが、木造3階建で建築確認を申請しようと思えば、耐震のための構造計算が必要で、設計費も建築費も上がります。

ですから構造計算が必要ない2階建てで建築確認を申請し、検査を受けずに3階建を建てて分譲していた不動産業者・建築業者が多かったのです。

このような物件を「違反建築物」だと知らされず購入した所有者が、売りに出したくても違反建築になっているために売れない・価格が下がってしまった…。このようなケースも多々あります。

ですから違反建築物はコンプライアンス以前の問題でもあるのです。

建築基準法に満たされない建物だったから怪我をした。耐震性が足りなかったために地震で命を落とすことになった。そうなれば、価格うんぬん以前に、大きな問題に発展します。

今回の記事は、違反建築物件で使用はしても収益をしてはならないことを暗に示しているのです。

違反建築物の物件を取引する際の注意点

不動産を購入する場合

これから不動産を購入する方は、検査済証が発行されていない物件は取得されないほうが賢明です。違反建築物は資産価値を下げる「5つの瑕疵」の1つです。

たとえ価格が安く購入したとしても、売却することが難しくなるケースも予測されます。購入金額よりも大幅に値下げをするか、現金化すら難しくなることもありますから、慎重に選ぶべきでしょう。

不動産を借りる場合

不動産を購入する場合と同様、できるだけ違反建築物は借りられない方が良いでしょう。

やはり安全面(通常の生活や災害時など)に疑問が出てくるからです。たとえば耐震性の低い建物が考えられます。レオパレス問題では「界壁が無かった(防音・防火性を有する壁)」ということがありました。

ですから最低限、検査済証がある建物かどうかを確認しておくことが必要かと思われます(無論、検査済証があったからと言って、必ず建築基準法を満たしているとは限りませんが…)。

賃貸物件を貸す場合

建築基準法が満たされていない物件を貸しに出されている場合、将来的なトラブル・損害賠償を考えれば、建築基準法を満たしておく必要があるでしょう。

たとえば手すりが必要な場所に手すりが設置されていなかったがために、転落・墜落したとなれば大問題です。耐震性に欠けていて地震時に建物が倒壊、人命に係われば「すみませんでした」では済まされません。

もし、是正が困難な場合は、事前に借主に説明し、それを踏まえて賃料設定をされておくべきでしょう。損害保険の加入を検討することも必要です。

今後、収益物件を購入する場合でも「検査済証がないから安く物件が手に入る」という考えは、一旦考え直す必要があるかもしれません。

不動産を売却する場合

検査済証のない不動産は今後、売却することが難しくなってくることが予想されます。現に検査済証があるか否を問われるケースも増えてきています。

検査を受けていないがために検査済証が発行されていない物件は「5つの瑕疵」の1つである「法律的瑕疵」に当たる可能性がありますので、物件の価値が下がりますし、売却リスクも高まります。

買主に説明し、それ相応の価格で売却することも検討する必要があるでしょう。

違反建築物と既存不適格物件との違い

ここでややこしいのが、建築基準法が満たされていない物件でも、既存不適格物件と違反建築物の違いがあることです。

簡単に説明すると、

  • 既存不適格物件は「当時の建築基準法に合致していたが、建築基準法の改正によって現行の建築基準法に合致しなくなってしまった」。
  • 違反建築物は「過失・無過失で建築基準法違反になってしまった」。

この違いです。

既存不適格違反建築
当時の建築基準法に合致。建築基準法の改正によって現行の建築基準法に合致しなくなった。知らずに違反してしまった
知ってて違反した

少し詳しく説明していきましょう。まずは最初に違反建築物から。

無過失による違反建築

違反建築物の過失・無過失ですが、無過失は「違反していることを知らなかった」ケースです。冒頭でご紹介した記事は無過失である考えられます。

建物であれば建築確認を申請するという周知がされています。しかし工作物(今回のような仮設物、看板や擁壁など)は、建築確認を申請しなければいけないという認識がないケースが少なくありません。

ですから「知らなかった」「認識が甘かった」となるケースは、この場合がほとんどです。

過失による違反建築

一方で、過失は「もともと違反するつもりで建てた」ケースです。ひと昔前は、コンプライアンスより「量」が追求されていました。「とりあえず住宅を供給しろ」というムードがあったわけです。

そこで「質より量」が追求されてきました。

たとえば、特に地価が高かった時代は、土地の面積を小さくして、その上に3階建ての建物を建てて分譲するというケースが散見されました。そうすることで、住宅供給量が増え、かつ全体の価格を抑え、売れやすくすることができたわけですね。

しかし小さな土地面積で建てられる建物の坪は限られています。ですから、建築基準法を無視して、敷地いっぱい、高さいっぱいに建物(木造はコストや構造を考えれば3階建が限度)を建てたわけです。

このような過失的な違反物件は、昭和の終わり頃〜平成初頭に建てられた新築住宅は特に多いように感じます。

既存不適格物件

既存不適格物件は、平たく言えば「今の建物とまったく同じ建物を建てようとしても、法律が変わってしまったがために、建てられない」という状態です。

たとえば、既存不適格物件になってしまうケースで考えられるのが、耐震基準です。近年で言えば「1981年」と「2000年」に、耐震基準に関する建築基準法が大改正がされています。

その改正年、以前に建てられた建物は、検査済証があったとしても、今の現行法の耐震基準に合致していないことになります。つまり「当時の基準には合致していたが、今の基準には合致してない。」ということです。

その他にも、高さ制限が下がってしまったことで、高層マンションの上階部分が既存不適格になってしまったケースもあります。このマンションを建て替えしようと思えば、同じ階層のマンションが建てられないことを意味します。

このように、建築基準法や都市計画法が改正されることによって、今の法律に合わなくなってしまった物件、それが既存不適格物件です。

この既存不適格物件は、そもそも当時の法律を遵守していた物件(という前提)なので、そもそも違反している建築物とは解釈が異なります。ですから、ローンの審査が通らないというようなことは、今現時点ではありません。

とは言え、今の耐震基準に満たしていないので、大きな地震が来れば倒壊の危険があるかもしれない…ということはあり得るでしょう。世の中はそのようなリスクを考えるよりもコンプライアンスの方が重要なんだと思います。

まとめ

個人的見解

最後、まとめると「違反建築物は取引しないほうが賢明」という内容でした。

改造車は車検に通らないように、プロ野球で金属バットは使えないように、法律やルールというものはどこにでも存在し、守らなければ罰則・退場を余儀なくされます。

建築・不動産業界においても、今までは「なあなあ」で済ませてしまうことがありましたが、これからは、そうはいかなくなるでしょう。

違反建築物件はまだまだ多く存在しています。過去は国や自治体が見過ごしていましたし(というより、行政指導はおこなっていたが建築業者側が無視していたように思います)、金融機関も違反建築物件にローンを出していました。

ですが今になって「それはないよな!」と思うことも多々あります。

しかし、今回の記事がニュースになるくらいですから、これからは違反建築物件は、淘汰されていくように思います。

個人的には、不動産は個性がありますし魅力のある物件も多くあります。その中で違反建築物も少なくありません。そのような物件を見ていると「もったいなぁ」と感じしてしまうことも多々あります。

そして建築士や施工業者のモラルの低さによって、それらの魅力が失われてしまっていることもあります。

どちらにしろ、最終的に責任や負担を負わされるのは不動産の所有者と消費者です。

それは知らないで不動産を買ってしまったり、借りてしまった人は(私も含めです!)、騙された気分、そしてハシゴを外されたようで、気分が悪いのは言うまでもありません。

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